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不動産譲渡の特例
個人が不動産を譲渡した場合、その不動産がマイホームなのか、事業用のものなのか、買換え資産があるのかどうか等、諸々の状況によって売却した人が使える特例が色々と用意されています。下表は税理士会の研修の資料から転記ししたものですが、なんと、30近い特例があります。不動産譲渡の際、特例の適用もれがないよう、確認は慎重に行いたいものです。居住用財産の譲渡を中心に紹介いたします。(順不同)
居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(自己の居住用) | 措置法35 |
居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(空き家) | 措置法35 |
収用交換等の場合の譲渡所得の5,000万円の特別控除 | 措置法33の4 |
特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合の2,000万円の特別控除 | 措置法34 |
特定住宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合の1,500万円の特別控除 | 措置法34の2 |
農地保有の合理化等のために農地等を譲渡した場合の800万円の特別控除 | 措置法34の3 |
特定期間に取得した土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の1,000万円の特別控除 | 措置法35の2 |
低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の100万円の特別控除 | 措置法35の3 |
譲渡所得の特別控除の累積限度額 | 措置法36 |
固定資産を交換した場合の課税の特例 | 所法58 |
収用等の場合の課税の繰延べの特例 | 措置法33 |
特定の居住用財産の買換えの特例 | 措置法36の2 |
特定の居住用財産の交換の特例 | 措置法36の5 |
特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例 | 措置法37 |
特定の事業用資産を交換した場合の譲渡所得の課税の特例 | 措置法37の4 |
既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の譲渡所得の課税の特例 | 措置法37の5 |
特定の交換分合により土地等を取得した場合の課税の特例 | 措置法37の6 |
特定普通財産とその隣接する土地等の交換の場合の課税の特例 | 措置法37の8 |
平成21年及び平成22年に土地等の先行取得をした場合の課税の特例 | 措置法37の9 |
優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡の課税の特例(軽減税率) | 措置法31の2 |
居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(軽減税率) | 措置法31の3 |
短期譲渡所得の税率の特例 | 措置法32の3 |
譲渡代金が貸倒れとなった場合等及び保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の譲渡所得の課税の特例 | 所法64条 |
土地建物等の取得費の特例(概算取得費) | 措置法31の4 |
相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例 | 措置法39 |
居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越し控除の特例 | 措置法41の5 |
特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越し控除の特例 | 措置法41の5の2 |
国・公益法人等に対して財産を寄附した場合の譲渡所得(非課税申請) | 措置法40 |
居住用財産を譲渡して、譲渡益が出た場合の特例から紹介いたします。
1.居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(自己の居住用)
不動産の譲渡関連の特例では一番メジャーなものかと思います。個人が居住用財産の譲渡をして譲渡益がでた場合、譲渡益の金額を限度として最高3,000万円を譲渡益から控除することができます。計算は下例のようになります。
例: 譲渡対価(売却金額) - 取得費※1 + 譲渡費用※2 譲渡益
80,000,000 - (34,000,000 + 500,000) = 45,500,000
譲渡益 - 特別控除 = 課税所得金額
45,500,000 - 30,000,000 = 15,500,000
※1取得費 | 売った土地や家屋を買ったときの代金(家屋は減価償却費相当額を控除後)や仲介手数料などの合計額です。 |
※2譲渡費用 | 仲介手数料、測量費など、土地や家屋を売るために直接要した費用をいいます。 |
この適用を受けるためには以下の要件があります。
⑴居住用財産の譲渡をした。
⑵前年又は前々年に、この特例(3,000万円特別控除)、「居住用財産の買換えの特例」「居住用財産の買換え等の場合 の譲渡損失の損益通算及び繰り越し控除」「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」の適用を受けていない。
⑴の「居住用財産の譲渡」ですが、マイホームの売却ならなんでもいいわけでなく、実は範囲が決まっています。
①居住の用に供している家屋の譲渡
②①の家屋が建っている敷地の用に供されている土地等(借地権も含む)の譲渡
③災害により家屋がなくなってしまった場合で、その家屋の敷地であった土地等の譲渡
④居住の用に供されなくなった家屋の譲渡
⑤④の家屋が建っている敷地の用に供されている土地等の譲渡
③④⑤は、住まなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡した場合、適用となります。
居住用財産の譲渡2.居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(空き家)
この特例でいう空き家とは、上記の住まなくなって3年内の空き家のことではなく、相続や遺贈で取得した、被相続人が住んでいた家屋・その敷地等をいいます。
こちらの適用要件は以下の通りで、条件を満たす譲渡については、3,000万円の特別控除の適用があります。
⑴相続開始から3年を経過する日の年の属する12月31日までの間に行った譲渡。
⑵相続税額の取得費加算の適用を受けるものをのぞく。
⑶譲渡対価の額が1億円を超えるものをのぞく。
3. 居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(軽減税率)
所有期間が10年を超える居住用財産の譲渡に係る譲渡所得には、特別控除後の課税譲渡所得に対して、その譲渡所得金額6,000万円以下の部分に対して所得税率が軽減されます。
・居住用財産の譲渡に係る長期譲渡所得金額が6,000万円以下の場合
居住用財産の譲渡に係る長期譲渡所得金額×10%(税率は所得税)
・居住用財産の譲渡に係る長期譲渡所得金額が6,000万円超の場合
600万円+(居住用財産の譲渡に係る長期譲渡所得金額 - 6,000万円)×15%(税率は所得税)
この適用を受ける要件は、
⑴その年1月1日において、所有期間が10年を超える居住用財産の譲渡であること。居住期間の要件はありません。
⑵その居住用財産の譲渡について、課税の繰り延べの適用を受けていないこと。
⑶ 前年又は前前年においてこの規定の適用を受けている。
収用交換等をした場合の5,000万円特別控除、又は居住用財産の特別控除とは併用適用ができます。
この特例の注意点は、家屋とその敷地を一緒に譲渡した場合は、家屋と敷地の所有期間のいずれもが10年超でなければならず、土地を先に購入し、後から家屋を建て、土地の所有は10年を超えるけれど、家屋を所有してからは10年以下である、というようなケースでは、3,000万円の特別控除は受けられますが、税率の軽減の適用はできません。
4.特定の居住用財産の買換えの特例
居住用財産を譲渡した場合、住み替えの促進のために上記のような3,000万円の特別控除が認められていますが、譲渡益が多額で、3,000万円控除だけでは足りない、というケースもあるため作られた特例になります。
課税の繰延とは、簡単にいいますと、この特例を受けて居住用資産の買換えの時に課税されなかった譲渡益を、将来買換資産を譲渡する時に加えますよ、という話で課税の先送りということになります。
譲渡所得の計算と買換資産の取得価額は下表の通りとなります。買替資産は新築中古等は問わず、取得時期は譲渡資産の取得時期は承継しません。
譲渡所得の計算 | 買換資産に付すべき取得価額 |
①譲渡対価の額≦1億円 適用あり 収入金額=買換資産の取得価額 → 譲渡なし | (譲渡資産の取得費+譲渡費用) |
②譲渡対価の額≦1億円 適用あり 収入金額<買換資産の取得価額 → 譲渡なし | (譲渡資産の取得費+譲渡費用)+(買換資産-収入金額) |
③譲渡対価の額≦1億円 適用あり 収入金額>買換資産の取得価額 → 超える部分につき譲渡あり (イ)総収入金額 収入金額-買替資産の取得価額 (ロ)取得費・譲渡費用 (譲渡資産の取得費+譲渡費用)×(イ)/収入金額 (ハ)(イ)-(ロ)=××× | (譲渡資産の取得費+譲渡費用)×買換資産/収入金額 |
③の例(買換特例の要件は全て満たしているものとします。)
前提
譲渡対価の額: 6,000,000円
譲渡資産の取得費: 4,000,000円
譲渡費用: 800,000円
買換資産の取得価額:5,000,000円
⑴総収入金額 6,000,000円-5,000,000円 =1,000,000
⑵取得費・譲渡費用 (4,000,000円+800,000円)×⑴/6,000,000円=800,000円
買換資産の取得価額
(4,000,000円+800,000円)×5,000,000円/6,000,000円=4,000,000円
要件は特別控除より厳しくなっており、主なものは以下の通りです。
- 譲渡した年の前年1月1日から譲渡した年の12月31日までに買換資産を取得、かつ譲渡した年の翌年12月31日までにその買換資産を自己の居住の用に供すること。・譲渡対価の額は1億円以下。
- その年1月1日において所有期間が10年を超える居住用財産の譲渡である。所有期間が10年超であるかどうかは、その譲渡の日の属する年の1月1日で判断します。
- 居住期間が10年以上。居住期間が10年以上であるかどうかは譲渡の日で判断します。
- 買換資産の家屋の面積が50㎡以上、土地の面積が500㎡以下。
- 売却した居住用財産と買換えた居住用財産はいずれも国内にあること
- その年又はその年の前年、もしくは前々年において
- ①居住用財産を譲渡した場合の課税の特例(空き家の3,000万円控除を除く)
- ②居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰し控除
- ③特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
- の適用を受けていない
- 買換資産が耐火建築である場合は、取得の日以前25年以内に建築されたもの又は一定の耐震基準を満たすもの
- 買換資産が耐火建築以外である場合には、取得の日以前25年以内に建築されたものまたは取得期限までに一定の耐震基準を満たすもの。
要件が多すぎて大変です・・・。
適用要件のまとめ
課税の繰延べ | 3、000万円特別控除 | 税額軽減 (6,000万円以下10%) | |
所有期間 | 10年超 | - | 10年超 |
居住期間 | 10年以上 | - | - |
併用関係 | ー | 税額軽減と併用可 | 特別控除と併用可 |
いずれも、配偶者、直系血族、生計を一にする親族、同族会社等に対する譲渡は適用除外になります。